それは、カリフォルニアで学生をやっていた時だった。
ある暑い日。
学校からの帰り道、
自転車がパンクしてしまったので
道端に座り込んで、パンクの修理キットを出して
パンクを直そうとしていた。
急に手元が影になったので
見上げると、
良く日に焼けた男性が立っている。
「手伝いましょうか。」
と、彼は日本語で話しかけてきた。
私が日本人だということを知っているのだ。
よく聞いてみると、私達には共通の友人がいて
私のことも、そして当時まだ彼氏だった私のオットのことも
その男性は、よく知っていた。
彼は、あっという間にパンクを直してしまった。
「僕、前、日本で競輪の選手やってたんですよ。
故障で辞めちゃったんですけどね。」
彼は、故障後、アメリカに来て
大学でスポーツ医学を学ぶつもりで
英語の勉強をしているのだそうだった。
「これ、本当にいい自転車ですよね。
手入れをしないと、もったいないですよ。」と言う。
その自転車は、
かなり良い日本製のハンドメイドのロードバイクで
どこかのお金持ちの奥さんが、
道楽で買ったものの3回乗って飽きてしまい、
新品同様の物を
非常に安く譲ってくれたものだった。
近々、件の共通の友達等々を呼んで
バーベキューをすることになっていたので
パンクを直してもらった御礼に、
彼も、そのバーベキューに呼んだ。
彼は、私の自転車の手入れをしたいから
早めに行くと言い、
他の人が来る何時間も前にやってきて
ガレージにたてこもると
自転車を完全に解体した。
そして、
スポークの一本、一本から、
チェーンの一節、一節まで
恐ろしくぴっかぴかに磨き上げ
丁寧に組み立てなおし、
もくもくとご飯を食べて帰っていった。
彼は、その後もたまに
家にやってきては
ガレージに立てこもり
私の自転車を解体して、ぴかぴかに磨いては
組み立てなおしながら
当時はまだ彼氏だった私のオットと
2人で勝手に自転車の話で盛り上がり
うちでご飯を食べて帰っていった。
どちらかというと、
私の友人というよりは
私の自転車の親友のようだった。
その後、私はニューヨークへ引っ越してしまったし
彼もどこかへ引っ越してしまい
音信不通になってしまったけれど
彼が、丁寧にメンテの方法を教えてくれたおかげで
時がたち、ビンテージと言われるようになっても
私の自転車は、ピカピカのままだった。
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ニューヨークに引っ越してしばらくは
セントラルパークで自転車に乗ったりしていたけれど
運転の荒いタクシーや
上を見ながらふらふら歩いている観光客の多い
カオスな街中を乗るのは
どうも性分に合わず
最近は、すっかり乗らなくなってしまった。
数日前、私は自転車の最後のメンテをして
すべてを、ぴかぴかに磨き上げた。
友人のSちゃんのボーイフレンドに
もらわれていくことが決まったのだ。
長年を伴にした、愛するモノが
また一つ、私の元を去っていく。
8 件のコメント:
愛車との別れは寂しいですよね。
でも、チャリは乗ってもらってなんぼ。
乗ってくれる人のもとで、新しいチャリ生を送ってもらいましょう。
アデュー!
たびささんのところに来て、
この自転車は幸せでしたねえ
次の持ち主さんのところへ、
幸せをまとって行くんですね
このようなスポーツタイプの自転車は、
マムは若かったとしても乗れません。
でも、う~ん・・・あげちゃうの~?
上のふたりのような大人な考えにはなれないマムです。
だから家は使わないものの山なんです。
カプメイさま
乗らないってわかっていても
なんとなく離れがたく。
でも今回は、知り合いなので潔く。 笑
とさこさま
あの元競輪選手の方がいなければ
悲惨な状態になっていたかもしれないけれど…
ひょんな出会いから
ぴかぴかのまま、我が家におりました… 笑
ポコマムさま
いままで、まむさんのような感じだったのですが
今は使わないもの、がんがんに処分しています。
使えるものはすべて寄付か売却してるので
どこかで誰かの役にたっていると思ったら
吹っ切れるようになりました。
ん~~~いいお話だ!
いろんなヒトの思いが詰まった自転車、譲られるSちゃんのボーイフレンドも大事に引き継いでくれるとイイネー。
ちえぞーさま
きっと大切に乗ってくれると思います。
うちにもよく遊びにくるよく知っている人なので
なんとなく安心です。
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