2013年10月11日金曜日

お財布の縁 (その3)





これまでのお話は こちら↓

その1

その2




青年が目にした新聞記事というのは、

日本軍による中国への侵攻が

本格化してきているというニュースだった。



自分がヨーロッパで楽しい生活を送っている間に

自分の故郷が外国に侵略されつつある。

大切な許婚を放ったまま

自分がぬくぬくと良い生活を送っているわけにはいかない。



ヨーロッパの状況も、日に日に変わりつつあった。

将来的にヨーロッパが安全かどうかもわからなかった。

青年は父親とアメリカで落ち合うことを約束し

すぐさま荷物をまとめ、中国に向かった。



久々に帰った中国は混沌としていた。

すでに多くの街は日本の占領下にあり

生々しい戦争の傷跡が

至る所にみられた。



彼は、すぐに許婚の住む村に飛んでいき

彼女を連れて、南京に向かった。

国を脱出するためには

パスポートとビザを手に入れなければならない。



必要な書類をそろえると

やっとの思いでアメリカ行きの船に乗り込んだ。

港は、日本軍の占領下にあり

中国人は簡単に外に出る事を許されていなかったが

どうにか外貨とコネを使って潜り込んだのである。



それは、南京が日本軍の手に落ちる

数週間前のことであった。

日本軍の占領後

中国政府もアメリカ大使館も機能を失った。

あと数週間遅かったら

道はすべて閉ざされていただろう。

命も危なかったに違いない。



そして、彼らはアメリカ西海岸へと向かったのだった。



ミセス・チェンは、当時、英語を一言も話さなかった。

移民局では、1人1人別々に審査されることになっていた。

青年は、不安がる彼女に必要な書類を渡し

こう言った。



「この書類さえ持っていたら大丈夫。

 入国手続が終わったら、外の門のところで待っているよ。」



PA180467
お話とは関係ないニューヨークの旧移民局の図



入国手続きの終わった青年が外に出ると

ミセス・チェンの姿はそこにはなかった。

日がとっぷりと暮れてしまっても、

彼女は、姿を現さなかったのである。



つづく








8 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

つづく。
せっしょうな。

匿名 さんのコメント...

はよはよ。

ぽてと さんのコメント...

とりあえず、ミセスチェンはアメリカにいると云う事だから、きっと無事入国したのであろうとは思いつつ・・・
(*^o^*)ドキドキ(*゜O゜*)バクバク

カプメイ さんのコメント...

お姫様の姿は無く、1ポンドのバターが落ちていましたとさ。。。
ぐるぐるぐるぐる・・・

Tabitha さんのコメント...

匿名様

つづく。つづく。つづく…

Tabitha さんのコメント...

匿名さま

ほよほよ…

Tabitha さんのコメント...

つづく…

Tabitha さんのコメント...

1ポンドのバターを売って、カエル(←こだわる)と交換するとあら不思議…